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英語のセリフには現れない、日本語の敬語レベルという選択

英語の I'll handle it というセリフは、話者がどれだけ丁寧に話しているかという情報をほとんど持っていません。これを日本語に訳す際には、必ず敬語レベルを選ぶことになります。そしてその選択は、単なる言い回しの違いにとどまらず、話者がどんな人物で、相手とどんな関係にあるかまで暗示してしまいます。正確な訳であることと、この判断を下すことは別問題であり、英語では強制されないこの判断こそが、英日ローカライズ特有の難所です。

3層構造としての敬語 ― 教科書的な整理

日本語の丁寧さの体系は、大きく三つの層で説明されます。普通体は辞書に載っている形そのままの活用で、親しい対等な相手や目下の人物、あるいはキャラクターの心の中の独白に使われます。文脈によってカジュアルにも、ぶっきらぼうにも読めます。

丁寧体は「です・ます」を基本とし、親しい間柄ではない相手 ― 見知らぬ人、顧客、立場の分からない同僚 ― に話すときの標準的なレベルです。丁寧ではあっても、へりくだってはいません。

敬語(尊敬語・謙譲語)はさらに一段深く、尊敬語は相手や第三者の動作を特別な動詞の形で持ち上げ、謙譲語は自分の動作をへりくだって表現することで敬意を示します。顧客や上司、あるいは形式的な敬意を払うべき相手に対しては、これが標準です ― 店員が客に話すとき、兵士が指揮官に話すときなど。

なぜ英語にはほとんど手がかりがないのか

英語は社会的な距離感を、文ごとに通過させられる文法ではなく、主に語彙と文脈(sir と mate の違いなど)で表します。一行の英語のセリフは、日本語の三つのどの敬語レベルに訳しても、言葉としては正確な訳になり得ます。つまり原文の文字面だけでは、どのレベルが正しいのかは分かりません。

だからこそ、敬語レベルはセリフ自体以外の情報 ― 二人のキャラクターの関係、場面、そのキャラクターの人物像 ― から決めなければなりません。その文脈が文書化されないまま一行ずつ翻訳していけば、それぞれの判断は個別には妥当でも、全体としては一貫しないものになります。

本当に重要なのは「一貫性」

一箇所だけ敬語レベルが違っていても、それ自体は小さな瑕疵です。問題は、序盤で指揮官に丁寧語を使っていたキャラクターが、昇進や関係の破綻、意図的な反抗といった物語上の理由もなく、途中から急に同じ相手にタメ口を使い始めることです。これはキャラクターの選択ではなく、ローカライズのバグとして読まれます。日本語を読むプレイヤーは、語彙だけでなく文法そのものが変わるこの種のずれを、他のどんな不整合よりも早く見抜きます。

実務上の要点はここに尽きます。一行ごとに「唯一正しい敬語レベル」を探すことが目的ではなく、ある話者と聞き手の組み合わせについて、ゲーム全体を通して敬語レベルを一定に保ち、物語上の理由がある時だけ変える、ということです。

翻訳中ではなく、翻訳前に敬語レベルを決める

現実的な進め方は、口癖についてボイスシートが果たす役割と同じです。まとめて翻訳を始める前に、主要な関係性ごと ― このキャラクターからあのキャラクターへ ― の敬語レベルを決め、文書に残しておきます。主要な登場人物同士の関係図(誰が誰に丁寧語を使うか、誰が誰に敬語を使うか、誰が誰にタメ口を使うか)があれば、翻訳者ごとにその都度推測する必要がなくなります。

端役や一度きりのキャラクターについては、役割ごとの単純な既定値(店員から客へは丁寧語、兵士から指揮官へは敬語、友人同士はタメ口)で大半のケースをカバーできます。

ずれをレビューで見つける

敬語レベルのずれは、ボイスのずれとまったく同じように忍び寄ります。多くの翻訳者と長い月日をかけて、少しずつ。特に本編からかなり時間が経ってから書かれるDLCやシーズンコンテンツで起きやすいものです。レビュアーの記憶ではなく、文書化された敬語レベルと突き合わせてキャラクターのセリフを確認するレビュー工程が、物語上の理由なく静かにずれてしまった関係性を見つけ出します。

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