フランス語対応の実務ノート — 文字数増加・性の一致・タイポグラフィ
フランス語は英語話者にとって馴染みやすく見えます。同じアルファベットを使い、歴史的に共有された語彙も多いためです。しかしこの馴染みやすさの裏には、英語前提で作られたUIでつまずきやすい技術的な要件が隠れています。フランス語の文字列は長くなりがちで、文法性が原因で断片を組み合わせた文が静かに壊れることがあり、フランス語独自の句読点の表記ルールはプレーンテキストのレンダラーが自動で適用してくれるものではありません。
文字数の増加
英語UIテキストのフランス語訳は、一般的に元より長くなり、短い文字列ではさらに大きく膨らむことがあります。英語で二語のボタンラベルが、フランス語では三語や四語のフレーズになることも珍しくありません。英語ラベルにぎりぎり合わせて余白数ピクセルで作ったボタンは、フランス語では文字が切れるか折り返されてしまいます。実務的な対処は、UIコンテナを原文の言語ではなく対応言語の中で最も長くなる言語に合わせて設計し、レイアウトを確定とする前に疑似ローカライズまたは実際の翻訳文字列でテストすることです。
文法性が断片組み立て文を壊す
フランス語の名詞にはすべて文法性(男性・女性)があり、冠詞・形容詞・過去分詞はそれに一致させる必要があります。英語では「the sword」も「the shield」も同じ冠詞ですが、フランス語ではune épée(剣、女性名詞)とun bouclier(盾、男性名詞)で冠詞が異なり、それを修飾する形容詞の形も変わります。une épée légère(軽い)に対してun bouclier léger、という具合です。
これは単なる文体の話ではなく、データテーブルからアイテム名を差し込んで「You found a {item}.」のような文を組み立てるシステムでは、実際のバグになります。英語のテンプレートは性に中立でどのアイテムにも使えますが、フランス語ではテンプレート内の冠詞や形容詞が、差し込まれる名詞の性に一致していなければなりません。性をデータとして渡すか、性ごとに別のテンプレートを用意しない限り、一つの固定テンプレートでは男性名詞・女性名詞の両方を正しく扱えません。
母音省略(エリジオン)
フランス語ではle、la、de、queなど一部の短い語で、次に来る語が母音音で始まる場合、母音を落としてアポストロフィに置き換えます。le amiはl'amiに、la histoireはl'histoireに(このhは無音です)、que ilはqu'ilになります。これは文体上の選択ではなく、le amiと書くこと自体が単純な誤りです。ローカライズにおいて重要なのは、ここでも固定テンプレートに名詞を差し込む方式では、差し込まれる語が母音音で始まるかどうかをテンプレート側が知らないと非文法的な出力になってしまう点です。
タイポグラフィ — 句読点まわりのスペース
標準的なフランス語の表記では、コロン・セミコロン・疑問符・感嘆符など一部の記号の前にスペースを入れます。英語にはこのスペースはありません(Vraiment ? であってVraiment?ではない)。伝統的な印刷用フランス語では、行末で記号だけが文から離れて改行されないよう、通常の全角スペースではなく分割不可の狭いスペースが使われます。この慣習を厳密に守るか、通常のスペースにするか、あるいは省略するかは対象読者やプラットフォームによります。フランス本国の正式な文章ではこの狭いスペースの慣習が使われる一方、他のフランス語圏地域ではそこまで厳密でないこともあります。いずれにせよ、翻訳者のワープロソフトの自動修正任せにせず、スタイルガイドに明記して意図的に選ぶべき事項です。
敬称(vous)と親称(tu)
フランス語では親称のtu(あなた)と、敬称かつ複数形でもあるvousを区別し、それぞれ動詞の活用が異なります。文脈によって行ごとに使い分けられる言語もありますが、ゲームでは通常、ナレーターやUIの語り口としてどちらか一方に統一し、一貫させる必要があります。同じキャラクターのセリフの中でtuとvousが混在したり、UIとナレーションで食い違ったりすると、演出上の選択ではなく単なる誤りに見えてしまいます。これは翻訳者と一緒に、プロジェクトの最初に明示的に決めておくべき事項で、最初に訳された文がたまたま使っていた形をそのまま踏襲するようなことは避けるべきです。
- レイアウトのコンテナは原文の英語ではなく、対応言語の中で最も長くなる言語に合わせて設計する
- アイテム名と固定の冠詞・形容詞を組み合わせる際は、性の一致を必ず考慮する
- テンプレートがle/laの直後に名詞を差し込む場合はエリジオン(l'への変換)を明示的に扱う
- 句読点まわりのスペースの表記方針を一度決め、スタイルガイドに記録する
- tuかvousかをプロジェクト全体で最初に固定し、行ごとに変えない