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ゲーム翻訳の外注契約チェックリスト: 締結前に決めておく論点

ゲームの翻訳は、しっかりした契約書がないまま始まることが多い仕事です。以前のプロジェクトで使った雛形、発注書、あるいは双方が合意事項とみなしているメールのやりとり。それでも、誰も想定していなかった場面が来るまでは回ります。発注先を替えたくなったとき。こちらが手を入れた訳文に翻訳者が異議を唱えたとき。相手から機械翻訳の工程を挟んでよいかと聞かれたとき。そして、ある指摘が「不具合」なのか「追加の依頼」なのかで意見が食い違ったときです。

以下は、締結前に決めておく論点のチェックリストです。防ぎたいトラブルごとに並べています。これは法的助言ではなく、条文の文案も含みません。契約に関する法律は国によって違い、相手が法人か個人かでも変わります。そして、ここに挙げた各点を実際に効力のある文言にする作業こそが、一般論の記事では書けない部分です。まず自社としての立場をこのリストで固め、そのうえで弁護士に作成またはレビューを依頼してください。何を望んでいるかが決まっていれば、その相談は格段に短く済みます。

訳文の権利は誰のものか

最も重要で、最も「書かずに前提にされている」論点です。翻訳はそれ自体が一つの著作物です。原作であるゲームを持っていることが、その翻訳を自動的に自社のものにするわけではありません。対価を払ったからといって、常にすべてが当然に移転するとも限りません。何が既定になるかは、準拠する法律と契約の書き方で変わります。

実務でよく使われる形は2つです。訳文に関する権利を発注側に移転させる形と、権利は翻訳者に残したまま発注側が利用許諾を受ける形です。許諾でも、範囲が十分に広ければ実務上は問題なく回ります。ただし「十分に広い」は、実際に何をするつもりかを具体的に書き出して初めて確認できます。

  • 翻訳者に確認せずに訳文へ手を入れられるか — 文字数調整、UI改修、レーティング対応など
  • 移植版、続編、リマスター、体験版、宣伝素材で再利用できるか
  • パブリッシャー、プラットフォーム、地域のディストリビューターに再許諾できるか
  • 契約終了後も使い続けられるか。将来のアップデートでの使用を含むか

実際の摩擦は、権利の名義よりも「手を入れてよいか」で起きます。ボタンに収めるために一行を短くしたところ、その結果に自分の名前が載ることに翻訳者が反対する、という形です。改変の可否とクレジットは、別々の時期に書かれた別々の条項ではなく、ひとつの話として詰めるべき理由がここにあります。

また、日本の著作権法では著作者人格権は譲渡できないものとされており、実務上は「行使しない」旨の合意を置く例が多く見られます。こうした条項をどう書くか、そもそも自社のケースで必要かは、必ず弁護士に確認してください。ネット上で見つけた雛形をそのまま写すのが一番危険な部分です。

翻訳メモリ・用語集など、過程で生まれる資産

納品物は訳文ファイルだけではありません。作業の過程で資産が生まれます。確定した原文と訳文の対を蓄積した翻訳メモリ、合意した用語をまとめた用語集、スタイルガイド、そして質問と回答の記録です。これらは、たいてい個々のビルドより長く価値を持ちます。

契約に何も書かれていない場合、よくある帰結は「発注先のツールの中にあり、そこに留まる」です。その影響が見えるのは発注先を替えるときです。次の相手はゼロから始めることになり、すでに支払い済みの行にもう一度お金を払い、しかもプレイヤーの手元にあるテキストとは少し違う言い回しが生まれます。

決めるべきは3点です。これらが「社内の作業ファイル」ではなく納品物であること。どの形式で受け取るか — メモリと用語の標準的な交換形式か、列構成を合意した表計算か。そしてどの頻度で受け取るか。頻度は想像以上に効きます。「契約終了時に一括で引き渡す」という取り決めは、双方の関係が最も冷えているタイミングでの引き渡しを約束しているのと同じです。

秘密保持は、実際には何を守る必要があるか

秘密保持の取り決めはほぼ必ず存在し、そしてほぼ必ず一般的な商業情報を想定した文面になっています。ゲームの案件では、その一般的な文面が取りこぼすものを具体的に含める必要があります。未公開のコンテンツ、物語の展開や結末、キャラクターの生死、未発表の発売日、そして公開されていないビルドへのアクセスです。

注意して読むべき条項は、「何を」よりも「誰が・いつまで」の部分です。発注先の中で誰が見てよいのか。再委託先にも同じ条件が及ぶのか。納品後どれだけの期間義務が続くのか。ファイルやビルドは終了後どうなるのか。ビルドを個人所有のPCにインストールしてよいのか。

そして毎回のように忘れられる項目が一つあります。外部のオンラインサービスにテキストを貼り付ける行為は、開示にあたります。それを許すのか、どのサービスなら許すのかは、締切に追われた各人の判断に委ねるのではなく、明文で決めておく必要があります。

再委託とAI利用: 実際に作業しているのは誰か

翻訳会社は再委託を使います。それ自体は普通のことで、悪いことでもありませんが、未公開のコンテンツを誰が持っているのか、出荷するテキストを誰が作っているのかは変わります。再委託を認めるのか、認めるなら事前に知らされるのか、秘密保持とAIに関する条件が実際の作業者まで及ぶのかを、契約に書いておく必要があります。

AIの利用は、実務の幅が広いぶん、明示的な立場表明が要ります。物語テキストについては機械翻訳・AI翻訳を一切禁止する会社もあれば、特定の工程に限り申告を条件に認める会社もあり、学習に使われない条件を確認したうえで指定のツールだけ認める会社もあります。どれも方針として成立します。成立しないのは「書かずに済ませて、後から発覚する」形です。誰も何にも合意していない状態で、双方が自分は妥当だったと考えるからです。

逆方向も書いておくべきです。自社で機械翻訳やAIによる下訳を作り、それを直してもらう発注なら、契約にそう書いてください。ゼロから訳す作業とは質的に異なる仕事であり、単価も通常は別で、着手後にそれを知らされた側には正当な言い分があります。

検収・修正義務・「不具合」の定義

ローカライズの揉め事の多くは、権利の話ではありません。ある指摘が「発注先が無償で直すべき誤り」なのか「発注側からの変更依頼」なのかという線引きです。合意された線がないと、双方が自分の定義から主張し、その損耗を関係そのものが引き受けます。

決めるべきは、検収で何を確認するのか、そしてその期間はいつからいつまでかです。納品時点から起算して営業日で定めた期間なら運用できます。いつまでも閉じない検収期間は運用できませんし、そもそも発注先は値付けができません。そのうえで、発注先の責任で修正すべき類型を挙げておきます。

  • 誤訳・意味の取り違え、未翻訳または部分的にしか訳されていない箇所
  • 着手時に合意した用語集から外れた用語の使用
  • 原文に含まれる変数・プレースホルダ・タグの破損
  • 依頼時に指定した文字数・表示幅の制限違反
  • 同じ文脈の同じ原文が、ばらばらに訳されている状態

同じくらい大事なのは、「不具合ではないもの」を明示することです。納品後に原文が変わった、依頼内容が変わった、どこにも書いていなかったトーンの好み、翻訳者が納品した後になって渡した文脈。これらは新しい作業です。それを無償の手直しとして扱うと、発注先は次回以降、あなたの案件を守りの単価で見積もるようになります。

こう着状態を防ぐ細部が2つあります。誰が判断するかを決めること — 自社側の担当者名を決めるか、社内に読める人がいない言語では第三者を立てるか。判断者が決まっていない品質論争は、ただ上へ上へと持ち上がっていくだけです。もう一つは、修正の対応期間と、修正義務の終わりを決めることです。無期限の責任も、いつまでも終わらない要求も、契約に置いておくべきではありません。

クレジット・支払い・終わり方

クレジットは、出す側にとっては安く、作業する人にとっては非常に大きな意味を持ちます。個々の翻訳者の名前を出すのか会社名だけなのか、どの表記でどのセクションに載せるのか、そして個人が実績としてタイトル名を公開してよいのかを決めます。「いつから」も含めて決めてください。未発表タイトルの名前が外に出るのは、クレジットの問題ではなく秘密保持の問題になります。

支払い条件は、地味な具体性が必要な部分です。通貨、起算点を明確にした支払時期、マイルストーン分割の有無、海外送金手数料をどちらが負担するか。国内でも、個人へ翻訳を発注する場合は報酬から源泉徴収が必要になることがあり、発注側の資本金や取引の性質によっては下請取引に関する規制が関わる場合もあります。該当するか、どう対応するかは、税理士や公式資料、そして弁護士で確認してください。他の案件からの類推で決めてよい部分ではありません。

最後に、関係の終わり方を書いておきます。仕掛かり中の作業と一部だけ納品されたファイルはどうなるのか。完了した範囲の翻訳メモリと用語集は受け取れるのか。支払い済みの範囲について権利は移転するのか。どちらからどれだけ前に通知するのか。解除条項が最も書きやすいのは、どちらも辞めたいと思っていない時期です。だからこそ、その時期に書いておくべきものです。

ここに挙げた項目は、法律の問題である前にすべて経営判断です。何が必要で、何なら譲れて、何なら契約しない判断をするのか — それを決められるのは自社だけです。決まった答えを持って、文言は弁護士に、国をまたぐ支払いに関わる部分は税理士に確認してください。この記事は、その相談の準備として使うためのもので、相談の代わりにはなりません。

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