アプリストアの掲載情報を多言語化する — 何から訳すか、どの順番で
スマホゲームを公開したものの、インストールがほぼ日本国内からしか来ていない。海外にも届けたい、と考えたときに最初に思い浮かぶのは「ゲーム本体を翻訳する」ことだと思います。それはそれで本気のプロジェクトで、期間も費用もかかります。一方で、今週から着手できて、労力が桁違いに小さい手段がもう一つあります。ストアの掲載情報です。
掲載情報とは、ストア側が表示するテキストと画像のことです。アプリ名、その下の一行、説明文、スクリーンショット、そして一方のストアにだけ存在する検索キーワード欄。全部合わせても数百語程度しかありません。それでいて、海外のユーザーがインストールするかどうかを決める前に読む唯一のテキストでもあります。だからこそ、アプリ本体の翻訳のついでではなく、独立した一つの仕事として扱う価値があります。
この記事では、各項目が実際に何をしているのか、二つのストアで原稿を分けるべき理由、言語によって検索のされ方がどう違うのか、そして着手の順番を扱います。
掲載情報の多言語化とアプリ本体の多言語化は別物
どちらのプラットフォームでも、掲載情報のテキストはストア側に保存され、ウェブのコンソールから編集します。一方、アプリ内の翻訳済みテキストはアップロードしたビルドの中にあります。保存場所が違い、編集する人もタイミングも違い、片方だけを進めることもできます。これは基本的に朗報です。通常は新しいビルドを出さなくても掲載情報の言語を追加・修正できるので、手元にある面のなかで最も安く試行錯誤できます。
同時に、知っておくべき落とし穴もあります。App Store の製品ページに表示される「言語」の情報は、アプリのバイナリに含まれるローカライズから導かれるもので、掲載情報を何言語ぶん入力したかとは関係ありません。10言語ぶんの掲載情報を用意しても、ビルドが英語だけなら、そこには英語と表示され続けます。掲載情報を訳してもストアが宣言する対応言語は変わりませんし、変わらないのが正しい動作です。
つまり、この二つの層がそれぞれ何を主張するのかを、意識して別々に決める必要があります。掲載情報は市場に届くための道具で、その市場に応えられるのはビルドだけです。
各項目の役割と、二つのストアの違い
項目名は二つのストアでよく似ていますが、重みは同じではなく、片方にしか存在しないものもあります。この非対称は見た目以上に効きます。片方には隠しのキーワード欄があり、もう片方はプレイヤーが実際に読む説明文を検索対象にするからです。
したがって、同じ訳文を両方に貼り付けると、片方では無駄が生まれ、もう片方では機会を逃します。キーワード欄があるストアでは、説明文は人間に読ませることだけを考えて書けます。ない側では、説明文が「自然に読めること」と「実際に打たれる語を含んでいること」を同時に引き受ける必要があります。
文字数制限は厳格です。どちらのコンソールも入力中に文字数を数え、超過した値は保存させません。記事で読んだ数字を信じるよりコンソールで現在の上限を確認し、その上限を翻訳者に最初に伝えてください。「タイトルを訳してください」と「この文字数に収まるタイトルを作ってください」はまったく別の依頼です。伝えないまま進めると、原文より長くなる言語では必ず作り直しが発生し、その判断はあなたにしかできません。
「言語ごとに一つしか作れない」と思い込む前に、もう一つ。言語別の掲載情報とは別に、特定の国や層に向けた掲載情報を追加で作れる仕組みを持つコンソールもあります。ローカライズというよりマーケティングの道具ですが、選択肢としては存在します。
- アプリ名・タイトル — ストア内検索で最も強い手がかりであり、検索結果の一覧で確実に読まれる唯一のテキスト。非常に短く、画面幅によってはさらに省略される
- サブタイトル(App Store)・簡単な説明(Google Play) — 名前のすぐ下の一行。多くの閲覧者にとっては、これが説明のすべて
- 詳細な説明 — 開いて読む人は多数派ではないが、興味を持った人が「自分向けか」を判断する場所。Google Play ではここのテキストが検索対象にもなる
- キーワード欄(App Store のみ) — プレイヤーには見えない、カンマ区切りの短い検索語の枠。Google Play に同等の欄はなく、そちらでは説明文がその役割を兼ねる
- スクリーンショットとプレビュー動画 — 言語ごとに別々の素材セット。実際に最も見られている部分
- 最新情報・更新履歴 — 短く、更新のたびに発生し、そして最も放置されやすい欄
検索語は、お互いの翻訳ではない
掲載情報を翻訳作業だと考えていると、ここでつまずきます。海外のユーザーがストアの検索窓に打ち込む語は、あなたが打ち込む語の辞書的な対応物ではありません。あるジャンルを自国語で検索する市場もあれば、英語からの借用語で検索する市場もあり、その音訳で検索する市場もあります。しかも三つが並存していて、そのうちの一つが明確に優勢、ということも普通に起きます。手元のキーワードをいくら訳してもこの答えは出ません。これは言語についての事実ではなく、市場についての事実だからです。
日本語の検索がまさにそうです。同じジャンルでもカタカナで打つ人、英語のつづりで打つ人、日本語の語で打つ人がいて、どれが優勢かは原文からは導けません。日本の開発者が英語圏の検索語を想像するときにも、まったく同じことが起きています。
これはツールを買わなくても調べられます。その国のストアで自分のジャンルの上位に出ているタイトルが、自分を何と呼んでいるかを読む。それは他社が実験した結果です。その言語で検索窓に途中まで打ち込み、出てくる候補を読む。候補は実際のクエリから作られています。そして、その国の既存プレイヤーがレビューやSNSで自分のゲームを何と呼んでいるかを読む。彼らは自然に出てくる語を使っていて、それこそが知りたかったものです。
スクリーンショットは説明文より働いている
ストアを訪れた人の多くは画像の帯を眺めるだけで、詳細な説明を開きません。スワイプしなくても見える最初の2〜3枚が説得のほとんどを担っているので、そこに焼き込まれた文字は、説明文のどの一文より一語あたりの重みが大きいことになります。
そしてその文字は文字列ではなく画像です。作り方も変える必要があります。キャプションの層を再生成できるように作ってください。元データではキャプションを独立したレイヤーに置き、長くなる言語でも収まる程度に短く保ち、特定の改行位置でしか成立しないデザインは避ける。言語を足すたびに手作業で作り直す構造にすると、言語を増やすのをやめてしまいます。
スクリーンショットは同時に、アプリの画面についての約束でもあります。ゲームが未対応なら、元の言語のUIが写ったスクリーンショットは少なくとも正直です。それを見てインストールした人は、何を手にするか分かっています。逆に、ビルドが対応していない言語のUIをモックアップで作って載せるのは、返金と星1レビューへの最短ルートです。
本体が未対応でも掲載情報だけ訳していいのか
正直な答えは二つあり、どちらが当てはまるかはゲームがテキストにどれだけ依存しているかで決まります。パズル、アクション、レース、スポーツのように、スクリーンショットを見れば何をするゲームか分かるタイトルなら、UIが未対応でも失うものは小さく、掲載情報の翻訳は本当に市場を開きます。物語主導のゲームやシステムが複雑なゲームでは事情が違います。訳された掲載情報は「遊べない人」を連れてきて、その結果はレビュー欄という、以後すべての訪問者が読む場所に残ります。
やるなら、はっきり書くことです。ゲーム本体が何語に対応しているかを、説明文の最後の一行ではなく冒頭付近に書く。スクリーンショットは実際のUI言語のままにする。持っていない対応をほのめかさない。正しい期待を持ってインストールした人は顧客になり、間違った期待でインストールした人は返金と公開の苦情になります。
そしてこのやり方には、インストール数以上の副産物があります。ビルドは未対応のまま掲載情報だけ訳した言語で得られた反応は、そのまま需要の実験結果になります。読めない言語だと分かったうえでインストールした人の数だからです。「その市場は大きいらしい」という漠然とした情報より、次にどの言語へ投資するかを決める材料としてはるかに具体的です。
着手の順番と、結果の見方
掲載情報が一言語しかない状態から始めるなら、下の順番が、労力に対する効果の大きい項目から片づける並びです。言語を増やす前に、まず一言語を最後までやり切ってください。増やす前に工程の癖が分かります。
結果はインストール数の絶対値ではなく転換率で見ます。どちらのコンソールも国別の獲得データを出せますが、訪問数は掲載情報と無関係な理由で国ごとに大きく違うので、訪問者が少ない国のほうが転換率は高い、ということが普通に起きます。掲載情報がコントロールしているのは比率のほうです。
変更したら数週間は判断を待ち、できるだけ一度に一つだけ変え、何をいつ変えたかを自分で記録してください。ストアのコンソールは掲載情報の編集履歴に注釈を付けて保存してはくれません。半年後、うまくいった掲載情報とそうでない掲載情報の差は、「数字が動いたとき、どの版が出ていたか」を覚えているかどうかで決まります。
- 対象言語を一つ選ぶ。市場規模の一覧ではなく、すでにインストールやレビューが来ている国から選ぶ
- タイトルと一行の欄を最初に。最も見られ、最も短く、最も難しいので、一語あたりの検討時間を最大に取る
- 次に検索語。手元の語を訳すのではなく、その市場で調べる
- スクリーンショットのキャプション。再生成できる元データから作る
- 詳細な説明。原文の構文をなぞるのではなく、その言語として自然に読める文章にする
- 更新履歴は、継続できる場合のみ。古い訳文が残っている欄は、未翻訳より印象が悪い
listing-source/ ja/ title.txt short.txt full.txt keywords.txt captions.csv en/ title.txt short.txt full.txt keywords.txt captions.csv screenshots/ 01.psd 02.psd 03.psd (キャプションは独立レイヤー)