テキスト量の多いゲームを海外で売る — ノベル・ADV・JRPGの判断
ノベルゲーム、ADV、ストーリー重視のRPGを作っていると、同じ会話を何度も経験するはずです。英語版は出しますか、中国語版はどうですか、と聞かれる。そこでスクリプトを開くと数十万文字あり、分岐まで数えるともっとある。翻訳費用はその数字にほぼ比例するので、答えが止まります。
厄介なのは、その同じ数字が逆向きにも働くことです。物語ゲームは国境を越えやすいジャンルです。売り物がキャラクターと文章そのもので、どちらも国が変わっても価値が減りません。しかも20時間テキストを読み続けられる人というのは、定義上、輸入作品を自分から探しに行く層でもあります。
この記事で扱うのは実装ではなく判断です。本当の文字量をどう数えるか、一度に全部を賭けずに済む段階の切り方、このジャンルで実際に加える価値のある市場はどこか、そしてテキスト量の多いゲームのローカライズで何が壊れるか。
テキスト量が多いジャンルの矛盾
多くのジャンルにとって、ローカライズは費目の一つです。あなたのジャンルでは、二本目の開発予算に近づくことがあります。アクションゲームならUIとアイテム名とチュートリアルで数千語、見積書を見ても支払える金額に見える。中規模のノベルゲームはその百倍の量を抱えていて、同じ単価が会話を止める数字を出してきます。
同時に、言語の判断が結果を最も大きく変えるのもこのジャンルです。パズルゲームは翻訳されていなくても、読めない人に売れます。遊びの本体が言葉の外にあるからです。物語ゲームは翻訳されていなければ、その層にはまったく売れません。言葉が読めない時点で、楽しむべきものが残らないからです。売り物がテキストそのものだという、それだけの話です。
だから「ローカライズすべきか」という問いはここではあまり役に立ちません。費用は軽く飲み込める額ではなく、効果は無視できるほど小さくもない。役に立つのは、どこまでを、どの順番で、何のお金でやるか、という問いのほうです。
もう一つ、見落とされやすい有利な条件があります。物語ゲームは商業的な寿命が長い。セール、バンドル、次回作を出したときの旧作発掘、読書系コミュニティ内での推薦。数年にわたって売れ続けます。翻訳費は一度きりの支出で、その先に非常に長い尾が伸びているので、発売月で回収を判定するゲームとは計算式が違います。
決める前に、本当の文字量を出す
「テキストが多い」では計画が立ちません。金額の話を誰かとする前に、スクリプトを書き出して数えてください。この数字はたいてい想定とずれています。少ないこともありますが、分岐を含めると増えるほうが多いはずです。
数える対象は会話だけではありません。地の文、選択肢と全分岐、システムとUIのテキスト、アイテム説明と用語辞典、実績の名称と説明、チュートリアル、スタッフロール、ストアページの文章。そのうえで、書き出しに出てこないテキストを探します。背景画像に描き込まれた看板、タイトルロゴ、UI素材の中の文字。これらは文字数集計に現れないうえ、単語あたりの単価は高くつきます。承認済みの予算が後からずれる典型的な原因です。
次に数字を整えます。複数ルートに物理的に複製されている行や、繰り返されるシステムメッセージは重複を除きます。ファイルに残ったままのボツ原稿、デバッグ用文字列、仮テキストは除外します。残ったものが出荷対象の分量です。
最後に、日本語の文字数を英語のワード数に換算する係数の話ですが、ネット上で見かける数字はどれも他人のゲームの平均値です。短い掛け合いが中心の日本語と、密度の高い地の文とでは挙動が違います。会話・地の文・UIを含む数千文字の代表サンプルをきちんと訳してもらい、自分のゲームの比率を実測してください。費用はわずかで、根拠のある数字が手に入り、しかも検討中の翻訳者の実力を見る試験も兼ねられます。
段階を切る — ストアページ、序章、そして本編
このジャンルで段階分けが効くのは、全部やった場合の金額が大きすぎるからです。以下の各段階は、次の段階よりずっと安く、そして次に進むべきかどうかの証拠を出してくれます。
第一段階はストアページと、対応言語の正直な申告です。数百語をネイティブにきちんと訳してもらい、スクリーンショットを1セット差し替える。これだけで、その言語圏に見に来ている人がいるかどうかが分かります。本編が未対応でも構いません。何が対応済みで何がそうでないかをページに明記してあれば機能します。
第二段階が、このジャンルの構造的な強みが出るところです。序章、第一章、あるいは体験版。物語ゲームには自然な切れ目があるので、序章だけの翻訳が断片ではなく完結した体験になります。実況され、レビューが付き、国別に数えられるウィッシュリストが積まれる。かかる費用は本編全体のごく一部です。これだけの実コンテンツで、これだけ安く市場テストを走らせられるジャンルは他にありません。
第三段階が本編です。ここで重要なのは誰が訳すかより、誰が全体をまとめるかです。人名・地名・繰り返し出る用語の用語集と、キャラクターごとの口調メモを、最初の1行目から維持する担当を置くこと。この役割を空席にしたまま複数の翻訳者に分割すると、一貫性の代金を二度払うことになります。翻訳のときと、ずれを見つけ直すレビューのときの二度です。
段階公開について一つ注意を。このジャンルでは、物語の途中までしか訳されていない状態は、まったく訳されていない状態より悪くなります。プレイヤーは翻訳が切れた場所でちょうど止まり、そこからレビューを書くからです。章ごとに出すなら、予定を先に告知し、ストアページに書き、その通りに守ってください。
足すべき市場は、いちばん大きい市場とは限らない
ストア全体の利用者の言語比率は、物語ゲームの指針としてはあまり当てになりません。ジャンルの読者層は人口分布とは違う固まり方をするからです。あなたの種類のゲームの読者が最も厚い言語が、一般的なランキングではかなり下に位置していることもありますし、その逆も起きます。
一般的な統計より役に立つ材料が三つあります。一つ目は、類似タイトルのレビュー言語比率。ジャンル・分量・価格が近く、すでに多言語で出ているゲームを何本か見ます。二つ目は、翻訳が存在しない現在の自分の国別ウィッシュリストとトラフィック。言語の壁を越えて残っている関心は、非常に強い証拠です。三つ目は、そのジャンルのファンコミュニティが実際に何語で会話しているか。これは無料で観察できます。
英語は別扱いが要ります。このジャンルにおいて英語は、単なる一市場ではなくハブとして機能するからです。メディアの記事も、配信者に見つかる経路も、コミュニティでの議論も、大半が英語で起きます。そして重要なことに、その先の言語への翻訳は、日本語の原文からではなく英語版から作られることが少なくありません。つまり英語版の品質は複利で効きます。英語のスクリプトにある誤りや、平板になったキャラクターの口調は、そこから訳される全言語に伝播します。
英語を中継言語として使うなら、なりゆきではなく意識的に決めてください。二段目の翻訳者に中継であることを伝え、曖昧なときに参照できるよう原文を渡し、両方向から質問が来る前提でスケジュールを組みます。そして、簡体字と繁体字、中南米スペイン語と欧州スペイン語のように実質的に分かれる言語は、書式の細部ではなく別の読者を持つ選択として扱ってください。
お金の話 — 一度きりの支出と、長い尾
テキスト量の多いゲームが、発売月に翻訳費を回収することはめったにありません。そして発売月で判定してしまうことが、本来なら成立していた投資を自分で否決する最も一般的な経路です。見るべき期間は年単位です。このジャンルのゲームは、それだけ長く売れ続けるからです。
タイトルをまたいだ蓄積もあります。最初に発注した翻訳が残すのは訳文だけではありません。用語集、翻訳メモリ、あなたの世界とキャラクターを理解した翻訳者、そして次回作が出たときにその言語圏にすでに存在している読者。このジャンルで作り続けるつもりなら、最初のローカライズは制作ラインへの投資でもあり、二本目は一本目よりはっきり安くなります。
価格も自動換算で済ませず、一度きちんと考えてください。長い読み物は、購買力のまったく違う市場の人が買います。為替の機械的な換算で地域価格を置くと、そのジャンルの熱心な読者が最も多い市場でこそ手が届かない値段になることがあります。同種のローカライズ済みタイトルが、その通貨でいくらを付けているかを見てください。
最後に継続費用です。パッチ、追加ルート、原文の誤字修正は、出荷済みの全言語を通って回ります。翻訳開始後に原文へ手を入れることは、ローカライズ予算を倍にする最も確実な方法であり、テキストフリーズの規律がこのジャンルで他より重要になる理由でもあります。
このジャンルで特に壊れるところ
以下は一般的なローカライズの問題ではなく、スクリプトそのものが商品であるときに偏って現れる失敗です。
- 原稿が確定する前に翻訳を始めてしまい、以後の改稿が全言語に掛け算で波及し、そのたびに一貫性が壊れ直す
- 長いスクリプトを複数の翻訳者に分けたのに、まとめ役も用語集もキャラの口調メモもない — 読者が気づき、レビューに書かれる程度のずれが出る
- テキストボックスとフォントと行数制限が原語基準のままで、伸びた訳文が、誰も再プレイしないルートの奥でレイアウトを壊している
- 人名の順序、敬称の扱い、主要用語を、最初に一度ではなく章ごとに場当たりで決めてしまう
- 大部分を機械翻訳にかけ、重要な箇所だけ人が確認する — テキストが商品のゲームでは、すべての箇所が重要な箇所
- 部分的な翻訳であることを告知しないまま出し、プレイヤーは体験が機能しなくなる場所でその境界を知る
- 証拠を待ち続ける — 読めない相手に売れるはずがないので、その証拠は永遠に集まらない