翻訳会社の評価基準をどう作るか — 継続発注のための評価シート
同じ翻訳会社に3タイトル続けて発注しています。直近の納品は最初の頃より悪くなった気がします。用語のブレが増え、質問が締切前夜にまとめて届き、修正指示を出すと指定した行だけが直って同じ間違いが他の場所には残っている。ただ、契約更新の打ち合わせに持っていけるのは「気がする」だけで、先方も同じくらい真剣に別の感触を持っています。
ベンダー評価シートは、この膠着を終わらせるために作ります。順位をつけるための道具でも、取引を切る理由を後から揃えるための書類でもありません。納品のたびに決まった項目を記録しておき、半年後に記憶ではなく記録を見て話すためのものです。
難しいのは何を測るかを決めることではなく、記録が続く程度に安く測ることです。1納品あたり1時間の分析が必要な項目は2か月目には埋まらなくなります。そして半分しか埋まっていない評価シートは、無いよりも危険です。たまたま担当者に時間があった納品だけを見て結論が出てしまうからです。
評価シートの目的と、やってはいけないこと
評価シートには3つの用途があります。フィードバックを具体的にすること(形容詞ではなく件数で話せる)、更新や発注範囲の判断に、担当者が交代しても残る根拠を与えること、そして同じタイトルで2社を比べるときに「プロデューサーの相性」で決まらないようにすることです。
逆に、絶対にやってはいけないことが一つあります。すべてを合成した「総合点」を作ることです。エラー件数と納期遅れと修正対応時間を平均した瞬間、せっかく集めた情報は消えます。どんな重み付けを選んでも根拠は恣意的ですし、計算式が先方に伝われば、最適化されるのは仕事ではなく点数のほうです。品質・進行・対応の3軸は分けたまま、並べて読むという運用を最後まで崩さないでください。
何を測っているのかについても正直でいる必要があります。このシートが測るのは翻訳会社単体ではなく、両社の協業です。紙の上でベンダーの弱点に見えるもののかなりの割合は、渡していない用語集、文脈列のない原文ファイル、翻訳者の質問に11日かかった自社の回答だったりします。そうした要因が結果に表れるようにカテゴリを設計してください。相手側しか責められないシートは、いずれ双方から無視されます。
品質 — 件数ではなく種別を数える
エラーの総件数だけを見てもほとんど意味がありません。納品の分量でも、レビュー担当が誰だったかでも、その担当がその週どれだけ厳しい気分だったかでも動きます。別々のレビュアーが別々の分量に対して出した2つの数字は比較できませんし、それをスライドで並べると比較できるかのように見えてしまいます。
比較に耐えるのは、カテゴリと深刻度に分けたうえで、新規・変更された分量に対しておおまかに正規化した数字です。カテゴリを分けるのは、原因も直す担当も違うからです。
- 意味 — 原文にないことを言っている、条件・否定・数量が落ちている
- 用語 — 渡した用語集から外れている、同じ用語が一つの納品内で2通りになっている
- トーン・文体 — 訳としては正しいがキャラクター・プラットフォーム・レーティングに合っていない
- フォーマット — プレースホルダ、マークアップタグ、エスケープ、改行指示が壊れている・欠けている
- 長さ — 想定していた表示領域に収まらない
- 欠落 — 未翻訳、空欄、一部だけ納品されている
深刻度はこれとは独立した第2の軸です。リリースを止めるか、出荷前に直すべきか、好みの問題か。カテゴリと分けて記録しておくと、細かい指摘が大量にあるだけで危機的に見えることも、出荷された誤訳1件が平均に埋もれることもなくなります。
品質軸で最大のノイズ源はレビュアー自身の好みです。「間違い」と「自分ならこう書く」を分け、数えるのは前者だけにしてください。好みによる修正も記録する価値はありますが、それはベンダーについての情報ではなく自社のスタイルガイドについての情報です。どこにも書いていない文体に合わせるためにレビュアーが3分の1を書き直しているなら、欠けているのは資料のほうであり、それを書き出した効果は翌四半期の用語件数に表れます。
もう一つ、手間をかける価値のある区別があります。渡した用語集から外れた用語はベンダーが直すべきものです。用語集を作っていない領域での不統一は自社の課題です。この2つをおおまかにでも分けておくと、品質軸が非難ではなく作業項目に変わります。
進行 — 日付と、届く質問の質
進行軸は最も記録しやすく、そして最も雑に記録されがちです。納品日だけを残しても情報は足りません。約束した日、実際の日、そして遅れが事前に申告されたか、ファイルが無いことで初めて発覚したか、の3点を残してください。金曜が月曜にずれると火曜のうちに言ってくる会社は一緒に計画が立てられます。金曜を無言で過ごす会社は、遅れ幅がどれだけ小さくてもスケジュールリスクです。届かない情報を前提に計画は組めません。
この軸でより情報量が多いのは質問ログのほうですが、記録している会社はほとんどありません。質問が何件あったか、いつ届いたか、どういう種類だったかを残します。質問は、その会社が内容を処理しているのではなく読んでいることの、目に見える唯一の証拠です。
良い質問には形があります。誰が誰にどういう関係で話しているのか、この変数にはどんな値が入るのか、この文字列に長さ制限はあるか、同じに見える2行は本当に同じ意味なのか。原文側の矛盾を指摘してくる翻訳者は、社内の誰よりも丁寧に読んでいます。危険信号にも形があります。テキスト量の多い物語系タイトルで質問がゼロなのは、資料が完璧だったからではなく、推測で埋めているからです。締切前48時間に質問が集中するのは、納品日が守られていても着手が遅かったということです。
最後に、こちらの回答が実際に納品物へ反映された割合も追ってください。回答したのに納品された行がそれを無視している、というのは先方内部の引き継ぎの不具合です。その行だけを読むと自然なので、通常の品質レビューでは決して表面化しません。
対応 — 修正指示を出したあとに何が起きるか
3つ目の軸は、長く付き合う相手かどうかが最もはっきり出るところで、修正指示を一度出すまで見えません。折り返しの日数も記録しますが、次に挙げる3点に比べれば重要度は低い数字です。
1つ目は、修正が定着するかどうかです。報告して修正済みと確認した問題が後の納品で再発したなら、それはシート全体で最も情報量の多い数字です。修正が作業元のファイルに届いていないか、後工程で上書きされている — 翻訳の問題ではなく、先方の工程のループが閉じていないという意味です。エラー率がそこそこでも再発ゼロの会社は、エラー率が低くても修正を落とす癖のある会社より価値があります。
2つ目は、修正の範囲です。ある用語が4か所で誤訳されていると報告したとき、次の納品で直っているのはその4か所だけか、プロジェクト全体の同じ用語すべてか。検索して直す会社は製品を一緒に保守しています。指定行だけを直す会社はチケットを処理しているだけで、その用語の残りをこちらが1年かけて見つけ続けることになります。
3つ目は、修正が上流に反映されたかどうかです。用語集と翻訳メモリが更新されたかを確認し、口頭の保証ではなく証拠を求めてください。資産に戻らない修正は、次のタイトルで必ずもう一度発生します。
反論も、良い意味で記録の対象です。「この地域ではこの言い回しは硬すぎる」「この用語はプラットフォーム側の指定だ」「この文字数では情報を落とさないと収まらない」と理由つきで押し返してくる会社は、こちらが払っている仕事をしています。何を指摘しても黙って直す会社は、自社のレビュアーの暴走からこちらを守ってはくれません。
1枚のシートにまとめる
評価シート全体は、納品1回・言語1つにつき1行に収まるべきで、もともと行っているレビューの中で埋まる量にします。言語ごとに分ける点は省略できません。翻訳会社は再委託しますし、品質は会社ごとよりも言語ペアごとの差のほうがずっと大きく出ます。9言語をまとめた平均値は、最初のマイルストーンから静かに崩れている1言語を簡単に隠します。
# 納品1回・1言語につき1レコード
納品: 2026-04-12 言語: fr 新規・変更ワード数: 8,400
進行 予定 04-10 / 実際 04-12
事前の遅延申告: なし
品質 意味 3 | 用語 9 | トーン 2 | フォーマット 0 | 欠落 1
リリース停止 1 | 出荷前修正 12 | 好み 5
(好みは記録するが評価には入れない)
用語9件の内訳: 渡した用語集から外れ 7
用語集未定義の語 2
質問 計14件、うち9件が締切前48時間に到着
回答済みなのに反映されていない質問 1件
対応 修正差し戻しまで 6日
修正範囲: 報告した行のみ
前回納品からの再発 2件シートを読むのは納品ごとではなく、一定の周期で行ってください。1回の納品はノイズが大きく、難しい章に当たった、レビュアーの調子が悪かった、資料が半分足りないままマイルストーンが来た、といった事情で簡単に振れます。傾向が読めるのは四半期やマイルストーン単位で、それより短い周期で読むと判断が振り回されます。
結果の使い方 — 武器にしない
評価シートは最初から先方と共有してください。隠して付けているシートは苦情ファイルですが、事前に合意したシートは共通の計器になります。最初の納品前にカテゴリの定義を合わせておくと、後で「これは誤訳だ」「いや文体上の選択だ」と揉める議論もまとめて消えます。
そのうえで、パターンが何を指しているかを読みます。渡していない用語集に対する用語件数の多さは自社の作業項目であり、直し方は値引き交渉ではなく資料の整備です。再発は先方の内部レビューの問題なので、担当者を明確にした工程の話として提起します。質問の終盤集中は先方の着手時期の問題です。無申告の遅延だけは、それ単体で本当の危険信号として扱ってよいものです。能力ではなくコミュニケーションの問題であり、能力不足は改善できても沈黙の習慣はたいてい変わらないからです。
本当に切り替えを検討する段になったら、シートと切り替えコストを並べて見てください。新しい会社は翻訳メモリも用語集も持たずに始まり、何より、あなたのゲームを読んだことのある翻訳者がいない状態から始まります。過去の資産が当然に引き継げると考える前に、翻訳メモリと用語ベースの返却について契約に何が書いてあるかを確認してください。これらを置いてくる乗り換えは、積み上げた一貫性を数年分ゼロに戻し、新しい会社からの初回納品で用語エラーの急増として必ず表面化します。
もっとも、評価シートを正直に運用した結果として最も多いのは、切り替えではありません。いま付き合っている会社の品質が上がることです。両社が初めて、机越しに感触を交換するのではなく、同じ紙を見て話せるようになるからです。