ゲームを広げる・売るRead this article in English

英語だけのゲームは何人に届くのか — Steamの言語割合の調べ方

1つの言語だけでゲームを出すとき、それは「このゲームは誰のためのものか」を決めている行為です。ただし決断している感覚はほとんどありません。画面のどこにも「入ってこられなかった人」は表示されないからです。ストアが見せてくれるのは訪問数、ウィッシュリスト、売上。ページを開いて、読めなくて、そのまま去っていった人の数は出てきません。

その見えない層は小さくありませんし、均等にも散らばっていません。大手PCストアにいる人はだいたい英語が読めるだろう、という前提で考えているなら、実際のプラットフォーム側のデータはその前提を裏切ります。しかもそのデータは公開されていて、毎月更新されていて、調べるのに2分もかかりません。

この記事では、そのデータの探し方、どちらの方向にも自分を騙さずに読む方法、そして「言語を1つ足すと自分のゲームでは何が取り戻せるのか」を考える枠組みを扱います。

Steamの言語データはどこにあるのか

Steamは毎月、ハードウェア・ソフトウェア調査(Hardware & Software Survey)を公開しています。参加に同意したユーザーから集めた統計で、グラフィックスカードやCPUの内訳に混じって、言語の項目があります。Steamクライアントに設定されている言語の分布です。無料で、公開されていて、1言語で出すかどうかを決める前に個人開発者が読むべき資料としては、おそらく最も費用対効果が高いものです。要約ではなく実物を見てください。この記事の要約も含めて、内訳は時間とともに変わります。

読むときの但し書きも一緒に押さえます。これはクライアントの表示言語の設定であり、その人が読める言語の代理指標ではありますが完全ではありません。参加を選んだ人からの標本であって全数調査ではありません。プラットフォーム全体の人口を表しており、あなたのジャンルを遊ぶ層の内訳ではありません。そしてアカウントや環境の数を数えていて金額ではないので、売上ではなく到達範囲の絵です。

1行でまとめるとこうなります(この程度は安定して言えます)。英語のユーザーは大きな塊ですが過半数からは程遠く、中国語のユーザーは常に最大級の塊であり、その後ろには、小規模なゲームにとっては十分に意味のある大きさの言語が長く続きます。「みんな英語が読めて、他の言語は誤差」という絵を思い描いていたなら、実際の表はその絵と一致しません。

そしてもう1つ、より良い情報源があります。プラットフォームではなく自分についてのデータ、Steamworksの数字です。トラフィック・ウィッシュリスト・売上を国や地域ごとに確認できます。全体統計は「何が可能か」を教えますが、自分の地域別内訳は「すでに何が起きているか」を教えてくれます。

英語で届く層と、届かない層

素朴な計算は、調査に出ている英語の割合を見て「残り全部を取りこぼしている」と結論することです。これは両方向に間違っていて、なぜ間違っているのかを理解して初めて、この数字は不安の材料ではなく判断材料になります。

まず損失を過大評価しています。母語が英語でないプレイヤーのうち相当数は、以前から英語のままゲームを遊んでいます。PCストアにおいて英語は事実上の第二言語として機能していて、地域によっては英語で問題なく遊べる層の比率は高いのです。その人たちにはすでに届いています。

同時に、損失を過小評価してもいます。そしてその度合いはゲームによって違います。ストアページを読めることと、40時間分の会話を第二言語で読み続ける気になれることは別の話です。言語の壁は、そのゲームがプレイヤーにどれだけの量のテキストを処理させるか、そしてそのテキストが楽しさの中心にどれだけ近いかに比例して高くなります。UI文字列が15個しかない物理パズルはほぼ言語非依存です。物語系のアドベンチャー、RPG、仕組みを文章で説明するタイプのゲームはそうではありません。こうしたゲームにとって「英語で快適に遊べる」は「英語のページを眺められる」よりずっと高いハードルです。

したがって誠実な言い方は「英語で全体の何%をカバーできる」ではありません。「言語を1つ足すと、そのジャンルを気に入ったはずで、かつ英語版では遊ばなかった人たちが取り戻せる」です。この重なり方はゲームごとに違い、だからこそ一般的な統計はあなたの問いに直接は答えられません。ただし、その重なりを取り出す母集団の大きさは教えてくれます。

唯一の言語が日本語の場合

ここまでは「唯一の言語が英語」という前提の話でした。日本語だけで出す場合、算数はもっと厳しくなります。プラットフォーム全体に占める日本語の割合は、英語の割合よりかなり小さいからです。

母語が英語でない開発者にとって、最初に足す言語がたいてい英語になるのはこのためですが、理由はユーザー数の比率だけではありません。英語は、国外のキュレーター・メディア・実況者の多くが使う言語であり、あなたの言語が用意されていないとき、考えたこともない国のプレイヤーがまず試す言語でもあります。英語を足すことは、英語圏のプレイヤーを足すだけでなく、他の地域のプレイヤーを連れてくる人たちにとって、そのゲームを読める対象にすることでもあります。

既存のデータの意味も変わります。日本語だけで出していて海外からの流入がほぼゼロだったとしても、それは「海外に客がいない証拠」ではありません。その人たちが辿り着くはずのページが、まだ存在していないだけです。自分が見えていない市場の需要は測れません。

「対応言語」でストアの見え方が変わる

人間側の話に加えて、機械的な層もあります。ストアページには対応言語の表があり、インターフェース・字幕・音声のどれが各言語で対応済みかが分かれて表示されます。プレイヤーはこの表を見ますし、ゲームの中身を検討する前にここで決める人も少なくありません。

さらにSteamには、設定した言語に対応していないタイトルを一覧から除外する設定があります。対応言語が1つだけのゲームは、ブラウズしている人の一定割合にとって、中身を評価される以前に存在していないことになります。おすすめ表示で少し不利、という話ではなく、フィルタです。除外されたものは、ないのと同じです。

ここで知っておく価値のあることが1つあります。安く試せる選択肢が開くからです。ストアページの説明文は、ゲーム本体が対応している言語とは独立に、言語ごとに登録できます。つまりゲームがまだ対応していない言語でも、ページだけ読める状態にできます。これは対応言語表を水増しする裏技ではありません。対応言語の表示は正直でなければならず、実際には作っていない対応を名乗れば、想像どおりの落胆レビューが返ってきます。要点は、ページと本体は別々に判断できて、ページのほうが圧倒的に小さい判断だ、ということです。

ストアページの文字量は数百語程度です。ゲームとストアページを、その言語のプレイヤーに自然に読める形へ作り直すことを業界ではローカライズと呼びますが、ページはその最小単位にあたります。実験として機能します。自分のアクセスデータがすでに指している言語でページを用意し、宣伝量を大きく変えないまま、その地域のトラフィックとウィッシュリストの比率が動くかどうかを見ればよいのです。

どの言語から足すか

ネット上のおすすめ言語ランキングでは、この問いには答えられません。あなたのジャンルも、テキスト量も、いまどこから人が来ているかも知らないからです。ランキングにできるのは候補を絞ることまでで、実際の判断は自分で確認できる3つの入力から出ます。

  • 自分の地域別データ — すでにトラフィックやウィッシュリストが来ているのに購入への転換だけ悪い国は、最も明確な信号です。見つけてはいて、言語のところで止まっている人たちだからです。
  • テキスト量 — 文字列が数百個のゲームなら複数言語を同時に抱えられますが、シナリオ量の多いゲームは一度に1言語が限度のこともあり、その場合は選択の重みがまったく違ってきます。
  • 言語ごとの実装コスト — 文字体系が違う言語を足すなら、数千字を収録したフォント、パイプライン全体を通したUTF-8、単語の間に空白があることを前提にしない行折り返しが必要になります。これは翻訳費とは別に積み上がる予算で、着手後ではなく決める前に把握しておく価値があります。

決める前に、実物を見る

この記事の主張は「多言語対応をすべきだ」ではありません。1言語で出す判断には、規模、予算、狙っている客層、翻訳費が回収額を超えるシナリオ量など、まっとうな理由がいくらでもあります。

主張は、それが「自分で下した判断」であってほしい、ということです。成り行きでそうなった、ではなく。ハードウェア・ソフトウェア調査を開いて言語の項目を見て、プラットフォームの実際の形を確認する。それから自分の地域別データを開いて、すでに誰が来ているかを見る。この15分が、推測を事実に置き換えます。その推測は、ストアページも、トレーラーも、フェス出展も、発売日も含めて、これから積み上げるすべての上限を静かに決めています。どの施策も最後は「結果を読める人が何人いるか」で頭打ちになるからです。

関連記事