なぜあのゲームは日本語対応してくれないのか — 対応言語が決まる仕組み
遊びたい海外のゲームを見つけて、対応言語の欄を見たら日本語がない。掲示板やコミュニティでは何年も要望が出ているのに、いっこうに追加されない。あるいは追加されたと思ったら、明らかに機械翻訳のままだった。「なぜ日本語に対応してくれないのか」という疑問は、たいていここから始まります。
答えは、多くの場合「日本市場を軽視しているから」ではありません。もっと事務的で、そのぶん納得しにくい理由です。対応言語は、開発側で毎回同じ形の計算にかけられていて、日本語はその計算式の中でいくつか不利な変数を持っています。
この記事では、その計算の中身を開発側から説明します。そして最後に、この話をそのまま裏返します。あなたが自分のゲームを海外に出すとき、まったく同じ計算を、今度はあなたが海外のプレイヤーに対してすることになるからです。
対応言語は熱意ではなく計算で決まる
言語を一つ追加するというのは、翻訳費用を一回払って終わり、という話ではありません。開発側から見ると、少なくとも四つの継続的な負担がセットで発生します。
- 初回の翻訳費用。テキスト量に比例するので、文章量の多いゲームほど跳ね上がります
- 実装と確認の作業。フォントの用意、UIに収まるかの調整、その言語で通しプレイして崩れを探す工程(ローカライズQA、略してLQA と呼ばれます)
- アップデートのたびに発生する追加翻訳。新イベントも新アイテムも、対応を約束したすべての言語で訳し続ける必要があります
- その言語で届く声への対応。レビュー、不具合報告、問い合わせが読めない言語で来ます
見落とされがちなのは三つ目と四つ目です。一度対応したら、そのゲームを更新し続けるかぎり費用も作業も続きます。だから開発側の判断は「翻訳費用を払えるか」ではなく「この先ずっとこの言語を維持できるか」になります。要望が多いのに動かないタイトルの多くは、初期費用ではなくこの継続コストの前で止まっています。
そして計算の分母は売上見込みです。その言語を足したら何本増えるか。ここが読めないと、費用の側だけが確実で、収益の側は希望的観測になります。開発側が慎重になるのは当然で、要望の数だけでは分母が埋まらないのがつらいところです。
日本語が「重い」言語である理由
同じ一言語の追加でも、日本語は他の言語より工数がかかりやすい条件をいくつも持っています。ヨーロッパの言語をもう一つ足すのとは作業の質が違います。
- フォント。ラテン文字のフォントは百数十文字あれば足りますが、日本語は数千字の字形が必要です。「フォントはもうあるから大丈夫」が通用せず、追加のフォントデータはビルドサイズにも効きます
- 改行処理。日本語は単語の間に空白がないため、空白を前提に作られた折り返し処理はどこでも切ってしまいます。行頭に句読点や閉じ括弧を置かない、といった禁則処理を実装側が知っている必要があります
- 文字幅と行の見え方。日本語は文字数としては短くなりやすい一方、一文字あたりの面積が大きく、行間も違います。数字の上では収まるはずのUIが、実際に表示すると詰まって見えることがよくあります
- 文字コードの事故。設定を一つ間違えると文字化けし、しかも開発者の環境では正常に見えることがあります
- 文体の要求。日本語は語尾や一人称でキャラクターを描き分ける言語なので、全員が同じ丁寧語で話すと、文法的に正しくても「翻訳っぽい」と即座に読み取られます
最後の一つが、機械翻訳をそのまま出したタイトルがレビューで叩かれる理由です。日本語のプレイヤーは、ゲーム内テキストを製品全体の丁寧さを測る手がかりとして読みます。文章が不自然だと、中身まで雑に作られているのではないかという印象に直結する。開発側にとっては「対応した」つもりでも、評価としては未対応より下がることがあります。中途半端に出すくらいなら出さない、という判断が起きるのはこのためです。
どういうときに日本語対応が決まるのか
逆に、対応が決まるときには決まる材料があります。開発側が見ているのは要望の数そのものより、需要が実在することを示す痕跡です。
- 日本語対応していないのに日本からウィッシュリストやアクセスが積まれている。障害があるのに来ているという事実が効きます
- 日本語の実況・配信・レビュー動画が出ている。未対応の状態で誰かが日本語圏の視聴者に向けて遊んでいるなら、その視聴者層は実在します
- レビューが日本語で書かれている、または英語のレビューに言語の壁への言及がある
- 内容のある要望。「日本語対応して」の一言より、遊んだうえで具体的に書かれた要望のほうが重みを持ちます
- 近い作品が日本語対応していて、その日本語レビューの評判が良い
プレイヤーとしてできることも、この一覧から逆算できます。効くのは、購入・ウィッシュリスト登録・レビュー・配信のように、開発側の管理画面に数字として現れる行動です。効きにくいのは、同じ要望を複数の場所に大量に投稿することで、これは数字を動かさないうえ、対応を渋っているのではなく維持できる見込みが立っていないだけの相手を追い詰めることになります。要望を出すなら、遊んだ感想と一緒に、どこが読めなくて困ったかを具体的に書くほうが情報として届きます。
裏返すと、これはあなたの海外展開の話でもある
ここまでを開発者として読み直すと、同じ計算があなたにも適用されていることが分かります。あなたが日本語だけでゲームを出しているとき、海外のプレイヤーはあなたに対してまったく同じ質問をしています。なぜ英語版がないのか、と。
そして答えも同じ構造になります。翻訳費用そのものより、更新のたびに続く翻訳と、読めない言語で届く声への対応が重いから。フォントとUIの調整が要るから。中途半端に出すと評価を下げるから。つまり、あなたが海外タイトルの日本語対応を待っているときに感じている歯がゆさを、あなたのゲームを待っている誰かも感じている可能性があります。
違うのは、あなたの側には判断材料が揃っているという点です。国別のウィッシュリスト、レビューの言語、海外からの実況、届いている要望 — 開発側が見ている材料は全部あなたの管理画面にあります。そして試し方も同じで、いきなり本編を全部訳す必要はありません。ストアページだけを訳して数週間データを見る、デモだけ訳して反応と自分の実装の耐久性を同時に試す、という段階の踏み方ができます。
日本語対応してくれない海外タイトルに対して「せめて理由を書いてほしい」と思ったことがあるなら、それも裏返せます。対応しないと決めたなら、黙っているより「今は難しい、こうなれば検討する」と書いておくほうがずっと受け取られ方が良く、要望も可視の形で積み上がっていきます。