Steamworksの税務インタビュー(W-8BEN)の仕組み — 日本の個人開発者向け
ビルドができ、ストアページも用意でき、銀行口座もある。そこまで来たところで、Steamworksが「税務インタビュー」を求めてきます。気がつけば、米国の税務上の居住地や租税条約の条項番号、聞いたこともない識別番号について答えさせられていて、しかもなぜアメリカに行ったこともない人間にこれが関係するのかは、画面のどこにも書かれていません。
ここで何週間も止まってしまう人は少なくありません。一度きりの提出で、間違えたら高くつく書類に見えるからです。実際にはどちらも違います。インタビューはやり直せますし、何をしている手続きなのかが分かれば、質問の大半は素直に答えられるものです。
この記事では、その仕組みを説明します。このインタビューは何のためにあるのか、どの書類を作ろうとしているのか、そしてどこで詰まりやすいのか。なお、この記事は税務上の助言ではなく、税率・税額・金額は意図的に一切書いていません。制度は変わりますし、状況によっても異なります。最終的な確認は、必ず公式資料の最新版と、税理士など有資格の専門家で行ってください。
なぜ米国の書類が支払いの前に立ちはだかるのか
支払う側の会社が米国にあるからです。米国の事業者が、米国外の個人や法人に一定の種類の所得を支払う場合、米国の法律は原則としてその事業者に対し、支払いから税を源泉徴収するか、より低い扱いが適用されることを示す書類を保管しておくかのどちらかを求めます。この義務は受け取る側ではなく支払う側にあります。だからこそ「あとから提出すればよいもの」ではなく「支払いを受けるための条件」として現れます。
税務インタビューは、その書類を集めるための仕組みです。あなたが米国に確定申告をしているわけでも、何かを課税されているわけでもありません。自分が誰で、どこの国の税務上の居住者で、自国と米国の間の取り決めによってこの支払いの扱いが変わるかどうかを、支払う側に伝えているだけです。
そしてこのインタビューでは、日本側でいくら納めるかは何も決まりません。それはまったく別の手続きで、日本の税務当局に対して、日本のスケジュールで行うものです。最後のセクションで概要だけ触れます。
このインタビューが作ろうとしている書類
インタビューは対話形式の質問票で、その出力は数種類の米国税務書類のうちの一つです。白紙のフォームを自分で埋めることは通常なく、質問に答えていくと最後に適切な書類が生成され、電子的に署名する形になります。
どれになるかは2つの分岐で決まります。1つめは、あなたが米国人(米国の税務上の居住者等)かどうか。この記事の読者はほぼ全員「いいえ」です。2つめは、個人として答えるのか、法人として答えるのかです。
- 米国人の場合(個人・法人とも)は、米国の納税者番号を証明する国内用の書式になります
- 米国外の個人は W-8BEN — 個人向けの、外国居住者であることの証明書になります
- 米国外の法人は W-8BEN-E — こちらはかなり長く、法人の種別についての追加の質問があります
個人か法人か — 始める前に決めておく
個人か法人かの分岐は、そのあとのインタビュー全体を変えます。流れで押してしまわず、意識して選ぶ価値があります。
屋号やサークル名で活動している個人事業主は、この手続きにおいては通常「個人」です。フォームに書く名前は原則として個人の法的な氏名であり、屋号は(そもそも欄があれば)別扱いになります。開業届を出していることや屋号があることは、この書類がいう意味での法人を作ることにはなりません。
法人化している場合は法人となり、長いほうの書式になります。法人の分類についての質問に加え、租税条約を適用する際には個人にはない適格性の条件についても問われます。最近法人化した場合や、自分の形態がどちら側なのか自信がない場合は、答える前に税理士に確認したほうがよい具体的なポイントです。あとから直すにはインタビューをやり直すことになり、書類の出し直しが必要になることもあります。
租税条約と、納税者番号の質問
日本と米国の間には所得に関する租税条約があります。条約がある場合、該当する所得区分について米国で源泉徴収される税の扱いが変わりうる — 場合によっては大きく変わります。ここで最も重要なのは、条件を満たしていれば自動的に適用される、というものではないという点です。フォーム上で条約の適用を申し立てなければ、条約は効きません。保管されている書類がそう言っていない以上、支払う側は既定の扱いで源泉徴収するしかないからです。
申し立てには2つのものが要ります。1つは税務上の居住国の申告で、これは記入した住所と整合している必要があります。もう1つが納税者番号です。長らく米国が発行する番号が事実上必要とされ、これが海外の個人にとって大きな壁でしたが、現在の書式では一般に、自分の居住国が発行する納税者番号を使う形が認められています。日本の居住者の場合にどの番号を記入すべきか(個人番号や法人番号を求められる形になることがあります)は、まさに時期によって変わりうる部分です。数年前の掲示板の書き込みではなく、そのフォームの最新の公式説明で確認してください。
フォームはさらに、自分の所得に適用される条約の条項と税率を記入するよう求めてきます。これは所得がどの区分に該当するかによって変わり、ストア収益の区分は専門家でなければ自明とは言えません。この記事で不安が残る箇所があるとすれば、専門家に聞く価値が最も高いのはこの質問です。どの区分・どの税率があなたに当てはまるかを、この記事では意図的に書きません。国、事業形態、条約の現行の文言によって答えが変わるためです。
始める前に手元に用意するもの
止まってしまう原因の多くは、聞かれる情報を用意しないまま始めて途中で放置してしまうことです。先にこれだけ揃えておけば、一回座って終わります。
税務インタビューを始める前に: - 氏名(公的な身分証明書どおりのローマ字表記) - 恒久的住所 - 実際に税務上の居住地である住所。郵送先住所や私書箱、 転送・気付(c/o)の住所は不可 - 生年月日 - 日本の納税者番号(該当する番号。米国の番号を持っている場合はそちら) - 個人か法人かの判断。法人の場合は法人種別 - 租税条約の欄に記入する税務上の居住国 - 送金先の口座情報: 上記と一致する口座名義、銀行名と支店の住所、 SWIFTコード、口座番号(またはIBAN)、および銀行から求められる 中継銀行の情報
よくある詰まりポイント
以下はどれも地味な内容ですが、この手続きで失われる時間の大半はここに集中します。概念的に難しいものは一つもなく、フォームがその場では指摘してくれない形で少しずつずれてしまうだけです。
- 氏名の不一致 — 税務フォーム、Steamworksのアカウント、受取口座の名義がすべて揃っている必要があります。人間から見れば些細な差でも、送金が止まる原因になります
- ローマ字表記のぶれ — 漢字名をローマ字にするとき、綴りを一つに決めて、銀行を含めどこでも同じにします
- 恒久的住所と郵送先住所の混同 — 別々の意味を持つ別々の欄です。恒久的住所の欄に転送先や気付の住所を書くと、条約の適用申し立てを弱めることがあります
- 住所の書式 — フォームが期待する構造は、日本の住所表記の順序とは違います。日本語の並びを再現しようとせず、聞かれた欄に対応する部分を入れます
- 証明と署名 — 入力する署名はフォーム上の氏名と完全に一致する必要があるのが通常で、署名権限についての宣誓も、読まずに進んでしまいやすい箇所です
- 有効期限 — この証明書には有効期間があり、期限が来たらやり直しになります。Steamworks側から警告は出ますが、都合の悪いタイミングで来がちです。カレンダーの予定として扱ってください
- 状況の変更 — 引っ越し、改姓、法人化があった場合、保管されている書類は正確でなくなり、インタビューのやり直しが必要になります
- 支払いの下限と周期 — 送金が実行されるための最低残高と、支払いのサイクルがあります。初回の入金は思っているより時間がかかるのが普通で、たいていは不具合ではなく手続きが動いている状態です
一発勝負の書類ではない
知っておく価値が最も高いのは、このインタビューはやり直せる、ということです。一度提出したら一生付き合う申告ではありません。法人種別を選び間違えた、住所を打ち間違えた、租税条約の欄を理解しないまま答えてしまった。どれも、戻ってやり直せます。
これが分かるだけで、固まってしまう理由の大半はなくなります。丁寧に答え、本人を特定する欄は実際の書類と照合し、条約の欄でどうしても分からないところがあるなら、いったん保守的に答えて完了させ、助言を受けてから見直すほうがよいでしょう。アカウントが支払いを受けられない状態のまま放置するより、はるかに実害がありません。
入金後の日本側の話(概説)
米国側のインタビューが扱っているのは、ごく狭い一つの論点だけです。この収入が日本でどう扱われるかは完全に別の話で、実際にお金が動き始めたところから始まります。
典型的に出てくる論点は、だいたい次のようなものです。この収入を確定申告でどの所得として扱うのか(継続的に事業として行っているかどうかで変わりえます)。どの時点のどの為替レートで円換算するのか。開業届などの届出が必要か。米国で源泉徴収された税があった場合にどう扱うか(二重課税を避けるための外国税額控除という仕組みが一般にありますが、適用には最初から保管しておくべき書類が必要になります)。そして、国境を越えた電子的なサービスの提供が消費税の扱いとどう関係するか — ここは最も直感に反しやすい部分です。
この全体を安く済ませる習慣が2つあります。1つは、初回の入金時点から、支払明細と源泉徴収に関する書類を一か所にまとめて保管しておくこと。1年後に再構成しようとすると、これが最も高くつきます。もう1つは、早い段階で一度、税理士に相談しておくこと。理想を言えば、最初の申告期限のあとではなく、最初の入金の前です。一度の相談料は、誤った前提で申告した1年分をほどく手間に比べれば安いものです。
最初に書いた注意を、もう一度書いておきます。ここに書いたのは手続きがどう組み立てられているかであって、あなたが何をいくら納めるかではありません。税率・基準額・所得区分・適用の可否について、この記事の記述を自分のケースの根拠にしないでください。詳細は米国税務当局の最新の公式説明とSteamworksのドキュメントで確認し、そのうえで日本の税理士など有資格の専門家に自分のケースを見てもらってください。