Steamのウィッシュリストを国別に読む — 次に足す言語をデータで決める
Steamworksのどこかに、ウィッシュリストの地域別内訳があります。初めて見たときの反応はだいたい同じです。興味深いけれど、これをどうしろというのか。上位に並ぶ国は予想どおりの国で、下のほうは意味を持たないほど小さい数字が延々と続き、レポートが言っていることと次に作るべきものとの間に、はっきりした線が引かれていません。
使いにくく感じる理由は、あのレポートが結論ではなく証拠だからです。国別の順位は、単体で見ればほぼ「Steamのユーザーがどこにいるか」を映しているだけです。それはプラットフォーム上のほとんどのゲームで似た形になるので、あなたのゲーム固有のことは何も言っていません。情報があるのは比較のほうです。プラットフォーム全体の比率に対する自分の比率、ある地域と別の地域の振る舞いの差、そして何かを変える前と後の同じ地域。
この記事では、その数字がどこから来ているのか、国と言語がなぜ同じではないのか、基準と比べてどう読むのか、そして地域の一覧表から「次にどの言語を足すか」という説明できる判断にどうつなげるのかを扱います。途中に出てくる計算例の数字はすべて説明用の仮想例であり、実際のゲームから測ったものではありません。大事なのは数字そのものではなく方法です。
その数字はどこにあり、何を測っているか
Steamworksは、まとめて「ウィッシュリストのデータ」と呼ばれがちな複数の異なるものを出していて、それぞれ答えている問いが違います。レポートの名前や画面構成は時期によって変わるので、メニューの場所を覚えるより、どの種類の数字が何を表しているかを理解して、自分のアプリの売上・トラフィックのレポート群から探すほうが確実です。
ストアの流入は、何人がページを見た・訪れたかを、地域別と流入元別に教えてくれます。これは発見の指標です。Steamと自分の宣伝が、どれだけ人の前にゲームを出せているかを測っています。
ウィッシュリストの動きは、追加・削除・購入(有効化)を分けて記録します。今回の目的で意味を持つのは追加です。追加は、ページを読んだ人が「覚えておく価値がある」と自分で判断した行為だからです。削除も無視できません。追加のわりに削除が多い地域は、ページを読んだあとで気が変わる何かが起きているということなので、見に行く価値があります。
地域別の売上はもっと後に出てくる最終的な事実ですが、発売前の言語判断には遅すぎますし、地域別価格の影響と絡んでいます。何を訳すかを決める目的では、「ページ閲覧に対するウィッシュリスト追加」の組み合わせが、たいてい最も使える指標です。
- 閲覧・表示回数 — その地域でそもそも見られているか
- ウィッシュリスト追加 — 見た人が行動したか
- ウィッシュリスト削除 — そのあと気が変わったか
- 購入・有効化 — 最終的な結果。発売後に効いてくる
国は言語ではない、という当たり前の落とし穴
レポートが返してくるのは地域です。あなたが下そうとしている判断は言語についてのものです。この二つは関係はありますが同じではなく、雑に読み替えることが、この分析が失敗する最も多い原因です。
多くの国にまたがる言語があります。スペイン語圏のウィッシュリストは、それぞれ単体では小さい行として長いリストに分かれて届きます。表を一行ずつ読んでいると、その言語は実際より弱く見えます。ポルトガル語、アラビア語、フランス語でも同じことが起きます。逆に、一つの国の中に、訳し分けるべき複数の言語が含まれることもあります。中国語はここで最も引っかかりやすい例で、簡体字と繁体字のどちらを選ぶかは、表の一行に対応する単一の判断ではありません。
そして、どこに住んでいるかがSteamクライアントの表示言語を決めるわけではない、という単純な事実もあります。母語圏の外に住んでいる人、英語のままインターフェースを使っているバイリンガルの人、移民人口の多い地域。どれも国と言語の対応をぼかしますが、レポートがそれを解きほぐしてくれることはありません。
実務的な対処は、解釈の前に集計することです。まず地域の行を言語のまとまりに束ねます。どの地域がどの言語で読む可能性が高いかは自分の判断で決めてかまいません。そのうえで合計を読みます。また、プラットフォーム全体の言語分布の基準としては、Steamのハードウェア&ソフトウェア調査がクライアント言語の比率を公開しています。これは国のデータではなく言語のデータなので、いま知りたい問いに対してはより近い代理指標になります。
ゼロと比べず、基準と比べる
地域別の生の表が誤解を生む理由はここにあります。ほとんどのゲームの国別内訳は、だいたい似た形になります。それは「誰があなたのゲームを欲しがっているか」ではなく「Steamユーザーがどこに住んでいるか」の絵だからです。ウィッシュリスト数で地域を並べ替えて上位から手を打つのは、ほぼ人口に対して手を打っているのと同じことです。
意味があるのは、期待値に対してその地域が多いのか少ないのか、です。プラットフォーム全体では一定の比率を占める地域が、自分のウィッシュリストでは著しく小さい比率しか占めていないなら、そこで自分のゲーム固有の何かが起きています。逆に著しく大きいなら、何かがうまくいっています。配信者かもしれないし、コミュニティかもしれないし、ジャンルとの相性かもしれません。それが何なのかは知る価値があります。
比率が低い原因は複数あり、言語はそのうちの一つでしかありません。そのジャンルがその地域で単に人気がないのかもしれません。価格が現地の感覚と合っていないのかもしれません。宣伝がそもそも届いていないのかもしれません。あるいはページが読めないのかもしれません。これらを切り分けるのが、閲覧数と行動数の比です。そもそも来ていないなら発見かジャンルの問題、来ているのに何もしないならページの問題です。
仮想の数字による計算例
以下の表は架空のものです。比較のやり方を示すためだけに作った数字で、実在のゲームから測ったものではありません。目安や、こうなるはずの基準値として扱わないでください。
説明用の仮想例 — 実データではありません
地域 ページ閲覧 ウィッシュリスト追加 閲覧100あたりの追加
------------------------------------------------------------------
地域A 40,000 2,000 5.0
地域B 22,000 1,320 6.0
地域C 18,000 180 1.0
地域D 9,000 540 6.0
地域A:閲覧も追加も最多。最大の市場だが、すでに知っていること
以上は何も教えてくれない。
地域C:注目すべき行。それなりの人数が来ているのに、ほとんど誰も
行動していない。この差はページの問題であり、「ページが
その言語になっていない」が最初に検証すべき仮説。
地域D:規模は小さいが、最良の地域と同じ率で転換している。ページは
すでに機能していて足りないのは発見だけなので、伸ばす候補。読み取りを判断に変える
流入はあるのに転換が悪い行は、仮説であって結論ではありません。お金を使う前に、別の説明がつかないかを確認してください。間違ったほうに手を打つと、実際の費用がかかったうえで何も変わりません。
その地域の急増が単一の出所から来ていないかを疑ってください。配信者ひとり、まとめサイトの一投稿、あるフェス。ひとつのバズから来たトラフィックは、ストアを普通に閲覧している人とは転換の仕方が違い、その期間に計算した比率をすべて歪めます。測定期間にセールや価格改定、プラットフォーム全体のイベントが重なっていなかったかも確認してください。特定の言語だけで宣伝を打っていれば、表全体がそちらに傾くのは当然です。
そのうえで、自分の考えを変えうる最も安い行動を選びます。言語の問いに対しては、それはほぼ常にゲーム本体ではなくストアページです。数百語で済み、他のすべての数字の上流にあり、仮説が正しければ、ゲーム側を何も変えていないのにその地域の閲覧→追加の比率が動くはずです。仮説が外れていたなら、問題が言語ではなく発見やジャンルにあったと、ごく小さい出費で学べたことになります。
- 閲覧が多く追加が少ない — まずその言語のストアページから
- 閲覧が少なく転換は良好 — これは翻訳ではなく宣伝・発見の問題
- 削除が多い — ページの先で何が起きているかを見る。価格、発売日の変更、期待を裏切った体験版など
- 全部が小さく平坦 — そもそも地域別に読めるだけのトラフィックがまだない可能性が高い
変えたあと、効いたかどうかを測る
ページを訳したら、最初の1週間で判断するのはやめてください。多くのゲームが動いている規模では、ストアのデータはかなりノイズが多く、1週間は無関係な何かに支配されがちです。変更前の落ち着いた数週間を基準として取り、変更後の落ち着いた数週間と比べます。比べるのは生の数ではなく比率にしてください。全体の流入が増えただけのものを成果と読み違えないためです。
できるなら、一度に変えるのは一つだけにしてください。ページの翻訳、地域別価格の調整、割引の実施を同じ週にやると、どれが効いたのか永久にわかりません。順番にやるほうが時間はかかりますが、次の言語のときに再利用できる知識が残るのはそちらだけです。
きれいな実験にはならない、という前提も受け入れてください。対照群はなく、季節性は実在し、プラットフォーム側のプロモーションは自分の与り知らないところで変わり続けます。実務的には、そのノイズを超えて残るくらい大きな変化だけを見ること、そして結果が曖昧なときには小さな動きに物語を読み込まず、曖昧だと正直に言うことです。
最後に、やったことと起きたことを書き残してください。ページを訳した日付、対象地域、前後の比率、そして自分の結論。この短い記録があるだけで、単発の実験の連なりが、自分のゲームの市場についての理解に変わります。3つ目の言語の判断が、1つ目より速く、根拠を持ってできるようになるのは、この記録のおかげです。